森井のコラム

2007年3月1日

病院投資における不動産鑑定の考え方

■情報の透明性と病院リスクの判定能力が問われる

利益処分が禁じられている病院経営においては、医師給与や関連会社への外注などによる高コスト体質が慢性化しており、多くの病院で不良債権化が進行している。こうした状況にある病院の不動産鑑定では、経営情報の開示に基く収支分析と中長期の改善プランによって得られた家賃負担能力とリスク分析によって、適正な投資評価額を求めなければならない。鑑定評価の確立による病院投資市場の拡大は、究極的には国家の医療財政の健全化に結びつき、高齢社会への貢献も多大なものとなるだろう。

■病院の事業特性

森井総合鑑定が手掛けた数多くの不動産評価の中で、最近、病院評価が増えてきました。数年前から始まった国立機関の独立行政法人化に伴い、国立大学病院や国立病院などの法人化で中部地方や関東地方で幾つかの病院評価に携わりましたが、昨年からは私立病院の流動化に伴う評価など、現在作業中も含め九州・中部・東北・北海道と、森井総合鑑定では計10件程になっています。
現在、このように流動化が求められる背景には、全国に9000余りある病院のうち苦しい経営状態にあるものが多く、所有と経営の分離(オフバランス)もほとんど進んでおらず、不良債権化が進行していることが考えられます。
医療事業では利益処分が禁止されているため、私立病院では借入金返済の源泉として、院長個人の所得を増加させ経費処理しているケースが大半です。
また、巨額の設備投資を要する事業資金の多くは院長の個人補償で借り入れており、債務超過に陥った場合、建設資金の元本返済に支障をきたしたり、相続の際に病院が破綻するなど、経営が不安定になっています。
国内人口の高齢化に伴い、医療や介護事業は今後ますます社会的に大きなウエイトを占めることになります。また、保険制度改革から医療事業と介護事業の棲み分けが始まり、病院の再編も始まりました。このような状況下において、適確な病院等の経営を行わなければ、日本社会は将来に禍根を残すこととなるでしょう。
プロの経営者ではない医師による経営改革にはまだまだ収益改善の余地があり、この部分を適正化すれば日本社会の医療・介護行政合理化の実現に近づくことになるでしょう。
そのためには、病院という不動産を投資家へ売却してオフバランスを図り、経営はプロの経営コンサルタントに任せ、医師は医療に専念するという、医療と経営と所有を分離することで、医業経営の改善と債権債務の正常化が可能となり、健全な地域医療の存続が実現できます。
病院という不動産を購入する投資家にとって重要なことは、広域的な背後地を要する特定科目や高度医療特化型病院や通常の医療・介護を中心とした地域密着型施設等々、個々の病院の有する特性を明瞭に把握し、投資リスクを適正に判断することです。
そして、様々な事業改善ステージ(取得時、改善段階、売却時等)における、それぞれのリスクを反映した適確な鑑定評価の適用がもたらす経営の透明性の増大と、それに伴う流動性の増加によって、変容する投資効果と資金調達力の確認を行うことが肝要でしょう。
病院の鑑定評価は一般の不動産とは異なり、様々な病院経営に関わるデータや経験を基礎として、個々の病院のリスクを分析しなければなりません。そのためには、医療・介護事業者と経営コンサルタントと投資家、鑑定機関との間に信頼関係を構築することが重要であり、それによって始めて、病院の将来の事業収益を適正に分析することが可能となります。
これまで病院の投資物件評価に携わった経験からすれば、病院は未開拓分野でもあり、新たな投資対象として適正価格で購入することが可能であれば、需給状況を考慮しても魅力的な分野だということです。

■鑑定評価における病院の見方

鑑定に限ることではありませんが、不動産証券化等の手法を用いた投資物件として病院の評価を行うに当たって最も重要なポイントは、他の収益物件と異なるリスクを判定することです。
今まで、証券化等のスキームによる投資案件としては、事務所・賃貸マンションといった不動産から始まり、商業施設や倉庫へ展開し、ホテル・老人ホームへと拡大してきました。
しかし、病院評価おいては、賃貸データの収集が容易なこれまでの一般的な投資物件のように単純にマーケットが把握できるものではなく、様々な病院経営に関わるデータや経験をもとに安定的な家賃負担能力の把握を行うことがポイントです。
病院の鑑定評価を行う場合の主要なリスクファクターの如何によりキャップレートが変化し、これらのリスクやその他の環境の変化に伴って収入が変化することとなります。
まず、病院には医療保険と介護保険の両方に関わる収入があることから、これらの収入がその病院においてどの程度の割合を占めるかを把握しておく必要があります。この保険制度は、当然、国家政策において変動することが予測され、高齢者人口の増加傾向から介護・医療とも徐々に厳しくなることも考えられます。したがって、地域ごとの高齢者人口の増加や保険へ回せる財政的余裕、その地域における人口バランスなど様々な構成要因が投資リスクを左右します。
そして、最も重要なリスクは、病院として個々の特性を活かして、存続可能かどうかということです。
病院とはやや異なりますが、特養老人ホームはほとんどの地域で不足していますが、老健施設や療養型施設の需給状況には地域格差が大きい、また、認知症対応施設は全般的に不足しているといった具合に、施設内容と地域との間には密接な関係があります。したがって、認知症対応病院等は、従来型の投資物件である賃貸マンションが全く想定できないような過疎地においても優れた収益構造を有するケースもあります。
また、社会的に名声や権威のある医師が勤務する高度医療型病院等では、競合病院の有無に関わらず高い収益性を確保します。ただし、この場合において、医師の転出に伴う収益変動リスクは高くなります。
さらに、近年においては、社会問題になるほど医療事故が数多く露見されるようになりました。医療事故等は少なくすることは充分に可能であるが、無くなることはない部分とされています。したがって、危機管理システムの再構築や医療過誤に伴う損害保険等によるリスクヘッジ等が重視され、綿密なマニュアル化等により、改善することが可能といえますが、医療事故等に伴う変動リスクも勘案する必要があります。
病院としての不動産は、建築構造や立地条件の関係から、他の用途への転換は困難であり、テナントである医療法人が破綻や転出などが起こった場合、他の医療法人を誘致する以外に手段はないといえます。しかしながら、代替テナントのリーシングは非常に困難であり、破綻リスクの回避プランと転出を阻止する賃貸借契約の締結等により、これらのリスクの圧縮が必然となります。特に、病院が市街化調整区域等の公益的な建物以外の建築が規制されているような地域では、病院以外の用途へ転用することは事実上不可能であり、長期の転出不可条項に基づいた賃貸借契約等の制限が重要です。

■不動産証券化・流動化の可能性

債務超過に陥っている医療法人のほとんどは、医療と経営を兼任する医師が病院運営上倫理面と経営面のアンバランスを発生させ、医療事業が予想された収益を生み出すことができないことによるものです。医療法人は利益剰余金を配当できないことから、役員等である医師の給与の過剰給付や同属企業への外注等が多く、資金の流れが不明確なケースが一般的です。
また、古くから地域の名士として存在する院長の立場を尊重したり、地域医療を破壊することを避ける配慮などもあって、金融機関を中心とする債権者は、病院に対して債権整理を要求できない場合がほとんどです。
したがって、多額の債務超過に陥った病院に対して、何の解決策もないまま手付かずの状態にあるものが多く、残された最後の大きな不良債権のとさえ言われるのが病院の状況です。
とは言え、金融機関にとって多額の債務免除は死活問題です。これまで適正な投資価値の判断が困難であったことも、思い切った決断ができないでいた理由のひとつと思います。
そこで、中長期的収支を詳細に分析することで適正な鑑定評価額を把握することが可能であれば、より公正で安全な投資価値を判定できることになります。
この場合、医療コンサルタントによる経営改善プランの策定と実行並びにノウハウの提供を行い、医療事業が安定した収益を生み出すことができるよう軌道に乗るまでモニタリングを継続することが債権者や投資家にとって重要です。そして、医療コンサルタントが想定収益及び収支改善の実現性を開示することで、鑑定評価における収支分析の精度が補完されます。したがって、投資家のみならず、鑑定評価サイドと医療コンサルタントとの綿密な連携と信頼関係の構築も重要となります。

■鑑定評価と透明性拡大の効果

不動産の証券化は、ここ数年で急速に拡大して参りました。証券化に係る法律も整備され、建物についてはエンジニアリングレポートが義務化され、汚染や構造並びに遵法性や修繕費予算などが明確化し、鑑定評価においても説明責任を求められるようになりました。
一方、従来の病院の鑑定評価においては、財務諸表等の情報開示が不十分であり、リスクの把握が困難であることから、極めて保守的な評価になることが中心でした。しかしながら、収支を含めた医療事業運営に関わる情報が適正に開示されれば、リスクを分析・把握することができ、それを鑑定評価に反映させることによって、病院の流動性は上昇し、付加価値を実現することが可能となり、医療事業者や債権者のみならず投資家等も、それぞれの利益を享受することが出来ます。
そのためには医療事業者・債権者・経営コンサルタントの協力が絶対必要条件となるため、従来までの病院経営の長い時間の変遷と一部に残る医療への拘り等が融解し、合理的見地に立った医療事業改革が期待されます。
その半面、透明性がほとんど存在しない状況においては、ハイリスク・ハイリターンとなり、比較的安価で投資物件を物色できる先行者利益があるかもしれません。
現在、病院の鑑定評価で一般的に採用されているキャップレートは、安全性の高いもので7%程度、地方の小規模でリスクが高いものでは、9~12%程度が標準的と考えますが、今後、管理状況や経営データ全般が正確に把握することが出来るようになった場合、キャップレートは1~5%程度低下(価格は上昇)することも可能になると考えています。

■健全な医療事業下の賃貸物件

病院の鑑定評価で特に重要となるのが、安定的な家賃負担能力の把握です。
しかしながら、これまでの一般的な投資物件のように賃貸データの収集が容易で単純にマーケットを把握できるものではありません。
そのためには医療法人の経営状況から家賃負担能力を分析する必要がありますが、会計情報等の提供を受けることができない場合もあります。
このような場合においては、所属する医療法人グループ等の業績情報等も検証資料として用い、また、病床数や病院の種類等に応じた一般的な収支データの分析及び検証を行い、負担している賃料が推定される医療純収益の何%程度かという判定も重要となります。
一般的に安定的な賃料負担能力の指標は、医療純収益(GOP)の60~70%程度ですが、収益構造の安定性によっては85%程度まで設定されるケースも見受けられます。当然、マーケットや将来の収益増加の可能性等、様々な要因を加味して実現可能な賃料設定かどうかの分析を行う必要があります。

■投資資金と病院投資

本来、事業収益を顕在化させる一般企業が利用する不動産とは異なり、非営利原則に基づいた医療事業の器である不動産としての病院に対する投資採算性は予測困難です。
事務所ビルなどの一般的な投資対象と比較して、病院経営や資産内容については非常に特殊性が強く、また、医療事業者である医師の病院資産への所有意思も根強いことから、経営指導や固定資産のオフバランス等は容易ではなく、医師の信頼を得るまでの時間と忍耐及び精度の高いデューデリジェンス等が必要となります。
一般的な投資対象でも同様に言えることですが、投資規模を拡大した場合、投資額に対する経営指導やデューデリジェンスのコストはさほど増加せず相対的に逓減傾向が発生し、コストパフォーマンスは上昇します。従って、規模のメリットは相対的に大きなものと考えられます。
立地条件や病院の規模等による典型的なケースとして、次のようなことが考えられます。

1 郊外立地の小規模な専門病院の場合
優秀な専門医の招聘等による専門性の向上や地域的な人口動態による需給改善があるようなケースでは、劇的な事業改善の可能性があることも考えられます。ただ、投資額が拡大することはなく、総額的な収益の伸びに貢献しにくい点が懸念されます。
2 都市型の総合病院の場合
土地建物の規模も比較的大きく、相当数の医師や専門機器の整備がなされており、医療事故等による信用失墜がないような場合でも、経営に問題があり債務超過に陥っているようなケースが見受けられます。
このような場合、患者数の確保や医師の新規確保も競合病院の状況に大きな問題がなければ比較的容易で、医療機器と建物設備、スタッフの再教育や経営陣の給与削減等が同時に実施できれば黒字転換は可能なため、比較的リスクは低いと言えます。しかしながら、取得価格が増大するのが一般的で、大きなキャピタルゲインを享受する可能性は低い反面、投資額が拡大することから投資貢献度は相対的に高まります。
当然、これらの投資リスクは鑑定評価におけるキャップレートの判定基準となることから、投資効率と個々の案件の分析が非常に重要で、特殊なノウハウが必要となります。

■今後の展望

これまで、病院の鑑定評価に携わった経験から言えることは、病院投資は未開拓分野であるため、新たな投資対象として適正な投資額で購入することができる機会があり、需給状況についても魅力的な状況といえるでしょう。
金融機関の最後の不良債権ともいわれる病院は、もともと安全とみなされていた医療保険収入が前提となっていることや、建設補助金の恩恵で安直な投資計画が成されたことが原因となって破綻していることが多く、本来適切な事業計画を策定し、緻密な医療経営を実施していれば、なんら問題の無い病院も数多くあるといえるでしょう。
院長の個人補償による高額債務に悩む病院経営者も多く、破綻が回避できなければ、債権者や債務者、患者、さらには医療従事者の生活までにも支障をきたすことになりかねない場合も多く、これらの早急なる手当てが必要と考えます。
この分野での医療経営の専門家も急速に脚光を浴びてきてはいるものの、彼らの歴史は浅く、対象とすべき病院数と比較して、専門家の数が絶対的に限られ、医師の病院への思い入れも相まって容易に話は進展しません。
ただ、徐々に熟成しつつある医療経営改善プログラムが、今後、各種金融機関の資金提供や事業分析ツール等となってノウハウの蓄積が進めば、より早く高度なものへ成長し、今後の国民医療の改善も加速していくものと期待します。
最後に鑑定サイドの立場から見ますと、医療事業者や医療コンサルタントとの間で、情報の守秘性の下、信頼関係が築かれ、過去から将来に渡る経営情報の実証的な分析が可能になることが何より重要であり、これらの実現なしに病院投資が成長することは難しいと考えます。医療事業の情報開示が進展することで、今後一大投資財へと成長することと思います。